怪物は、またひとしきり耳障りな馬鹿笑いをした後、こう続けた。
「だがわしにも情けはあるぞ。そちの趣向に付き合うのも、ひとときの退屈しのぎにはなろうて。さればこそ、わしもこのようにめかしこんできたのじゃ。さあ、早く案内せい。わしは待たされるのを好まぬ。もたもたしておると、今ここで食ろうてやるぞ」
 花嫁は、怪物に向かってぺこりと頭を下げると、こわごわ遠巻きに見守っている親族達に笑顔を向けた。
「さあさあ、みんな中に入ってください。ほら、叔父さんは叔母さんを起こしてあげて。腰を抜かしてしまってるじゃありませんか。武雄もぼっとしてないで手伝うの。お母さんも早く早く。あ、お父さんはここに残ってください。あとよっちゃんとめぐもね。二人には入場のお手伝いをしてほしいの。花屋さん、私にブーケを下さいな、さあ、楽隊の皆さんもしゃんとしてください。トランペットの音がぶるぶるふるえていたら、せっかくの式が台無しよ。」
 花嫁は、皆を励ますように、てきぱきと指示を与えた後、怪物に向き直った。
「あなたには、神父さんといっしょに先に入場していただきます。でも、どうかみんなを怖がらせないでください。お願いします」
 怪物は、にやにやと笑いながら花嫁を眺めていたが、「よし」と一声言うと、鉤爪の生えた両の手を胸の前でがちがちと組みあわせ、なにやら複雑な印のようなものを結んだ。すると皆の耳がきんと鳴って、あたりが一瞬さっと暗くなった。再び景色が明るくなると、そこには見上げるような怪物の姿はなく、かわって長身の男がすっくと立っていた。
「これでよかろう」
 男が言った。黒のタキシードに包まれ、あごひげを生やしたその壮年の男は、一昔前の紳士然とした風貌をしていたが、痩躯にみなぎる精悍な力と、その表情に表れた倣岸さは、まさしく怪物のそれと知れた。そしてその胸元では、相変わらず大きな鬼百合の花が、笑うように身を揺らしながら、毒々しい赤色に輝いているのだった。
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