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女王蜂

 
 午前中仕事を休み、実家近くの病院に健康診断を受けに行く。
 病院に行くのはたしか、五年以上ぶりである。
 しばらく廊下の長椅子で待たされた後、名を呼ばれて内科の診療室に招き入れられる。 まず身長と体重を計られ、次に聴診器を当てられ、その次は血圧、またその次は心電図と、ベルトコンベア―式にテンポよくことが運ぶ。 最後は採血だった。
 丸い回転椅子に座り、右腕を伸ばして、見る見るうちに注射器を満たして行く自分の血を眺めながら、何だかどす黒い色だなあ、いやだなあと思っていると、針が引き抜かれ、代わってガーゼの切れはしが押し付けられる。
「強く押し付けていてくださいっ」
と、その女性看護士は「い」の後にちいさな「っ」をつけて言い放ち、私に背を向けた。 二十代半ばから後半くらいだろうか。 なにやら作業をしている手元を休めないまま、私に横顔を見せる。
「次は二階の健康管理室になります。場所はわかりますね?」
「いえ、わかりませんが」
 彼女の口元がにっとつりあがった。
「なによ、田舎者ね、二階の健康管理室も知らないなんて」
という風の笑みである。 その上では小さな鼻がちょこんととんがり、その下では 同じく小さなあごがちょこんととんがっている。 青白く、肉の薄い頬にわずかなそばかすがある。
「じゃあそこの階段かエレベーターを使って二階に上がってください」
「はあ、わかりました」
 彼女は近寄ってきて、ガーゼを小さな四角い絆創膏と取り替えた。
「このまま2、3分押し付けておいてください…二階に上がったら、吹き抜けがありますから、その周りをぐるっとまわってください。 反対側が健康管理室ですから」
「はい」
 座ったままの私を真上から見下ろして、彼女の顔に勝ち誇った笑みが浮かび、小さな鼻とあごが、ますますつんと反り返った。 そのきらきら輝く細長い目がこう言っていた。
「あなたごときに、二階の吹き抜けを回り込んで、反対側の健康管理室にたどり着くことができると思って? 無理ね。 分をわきまえなさい、おほほほほ」
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