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 昼寝中に見た夢。

 何冊か本を買って帰宅すると、母親が待ち構えていた。
 早速買い物袋の中を見せろと迫られる。私は先日の離婚騒ぎ以来、母の信頼をまるで失っており(あくまで夢の中での話です。念のため)、それから彼女は私の生活態度のこまごまとした部分にまで執拗な監視の目を光らせてくるようになったのである。
 私が半ば冗談、半ばヤケ気味に、エロ本が入っているから見せられぬと答えたのも全く耳に入らないかのように、母は私の手から素早く紙袋を引ったくると、中身をばさばさと床の上にあけてしまい、一冊一冊手にとっては、「これは何?」「これは何なの?」と聞いてくる。
 私は適当に返答しながら縁側の外を見やる。庭先から、奥へ奥へと連なってゆく小高い山々がよく見える。そういえば、ここは山のてっぺんだったのだ。遅い春の季節と見えて、庭も山々も、どぎついまでに明るい緑色に染まっていた。しかし大気は重く湿り気をおび、妙に黄ばんだ陽光が、今にもにわか雨がやって来そうだと告げている。
 案の定、庭の左手に生い茂っている葉桜の陰から、真っ黒な雨雲がもうもうと立ち上がってきた。谷底から、桜の木の生い茂る斜面を這い上がってきた黒雲は、林と庭の境界線あたりで無数のちいさなちぎれ雲に分かれて、庭を次々と通り過ぎてゆく。一抱えくらいの小さなものから、自動車くらいのものまで、まちまちな大きさの真っ黒な綿埃のような雲が、ちょうど私の目の高さあたりでふわふわと漂いながら、左から右へと通り過ぎてゆくのである。私は山の上だからこういうことも起こるのだろうと納得している。
 と、人が歩くほどの速さでしずしずと行進してくる大小の雲にまぎれて、白い大きな瓶がひとつ、宙に浮かんでこちらに漂ってくるではないか。斜めに浮かんだ細長い白磁の瓶の口には、一枝の満開の桜が差されている。いくら山の上でも、こういう不思議はそうそう起こらないだろうと思って、私は母に声をかけた。
「ほら母さん、大きな瓶が流れていきますよ」
 しかし母親は、本にはさんであったレシートを調べるのに余念がない。そこに書かれている本の題名を、ぶつぶつと呪文のように唱えている。瓶は私のすぐ目の前をゆっくりと通り過ぎてゆく。すぼまった瓶の口から奇妙に折れ曲った枝が突き出し、そこにびっしりと咲き誇っている小さな花々は、桜というよりもバーミリオンに近い鮮やかな色をしている。
 墨汁をたらしたような雲の行列の中で、そこだけ誰に捧げられるとも知れない艶やかな祝祭の空気に包まれて、瓶は庭に繁る雑草の上にくっきりと丸い影を落としながら、段々と遠ざかってゆき、やがて私の視界を限っている、藪とも雑木林ともつかぬ曖昧な黄緑の景色の彼方に消えた。

 私は目覚めると、何かもやもやとした不安が襲ってきそうなのを振り払うようにして外に出た。冷気が顔を打つ。なんだ、もう冬じゃないかと思う。



2006年11月13日月曜日午前11時10分、アパート前
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