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奇妙な花嫁 その4

 
 怪物は、またひとしきり耳障りな馬鹿笑いをした後、こう続けた。
「だがわしにも情けはあるぞ。そちの趣向に付き合うのも、ひとときの退屈しのぎにはなろうて。さればこそ、わしもこのようにめかしこんできたのじゃ。さあ、早く案内せい。わしは待たされるのを好まぬ。もたもたしておると、今ここで食ろうてやるぞ」
 花嫁は、怪物に向かってぺこりと頭を下げると、こわごわ遠巻きに見守っている親族達に笑顔を向けた。
「さあさあ、みんな中に入ってください。ほら、叔父さんは叔母さんを起こしてあげて。腰を抜かしてしまってるじゃありませんか。武雄もぼっとしてないで手伝うの。お母さんも早く早く。あ、お父さんはここに残ってください。あとよっちゃんとめぐもね。二人には入場のお手伝いをしてほしいの。花屋さん、私にブーケを下さいな、さあ、楽隊の皆さんもしゃんとしてください。トランペットの音がぶるぶるふるえていたら、せっかくの式が台無しよ。」
 花嫁は、皆を励ますように、てきぱきと指示を与えた後、怪物に向き直った。
「あなたには、神父さんといっしょに先に入場していただきます。でも、どうかみんなを怖がらせないでください。お願いします」
 怪物は、にやにやと笑いながら花嫁を眺めていたが、「よし」と一声言うと、鉤爪の生えた両の手を胸の前でがちがちと組みあわせ、なにやら複雑な印のようなものを結んだ。すると皆の耳がきんと鳴って、あたりが一瞬さっと暗くなった。再び景色が明るくなると、そこには見上げるような怪物の姿はなく、かわって長身の男がすっくと立っていた。
「これでよかろう」
 男が言った。黒のタキシードに包まれ、あごひげを生やしたその壮年の男は、一昔前の紳士然とした風貌をしていたが、痩躯にみなぎる精悍な力と、その表情に表れた倣岸さは、まさしく怪物のそれと知れた。そしてその胸元では、相変わらず大きな鬼百合の花が、笑うように身を揺らしながら、毒々しい赤色に輝いているのだった。
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COMMENT

key URL @
01/26 21:41
つねに来たりて相寝よ. というわけですね
ふふっと笑ってしまいました
ムー大陸 URL @
01/27 01:03
むむむ. 

何のことか分からなかったのでググって見たら、『日本霊異記』ですか?
keyさんはすごい教養の持ち主と見ました。
私は無学の徒なので、ホント適当に書いているだけなのです。
あまり深読みされぬよう(笑)
key URL @
01/27 02:42
. 深読み、ですか?いたって、素直なつもりなのですが。
異形の者の恋心て切ないじゃないですか。
なまはげ伝説とか。
こちらのお話しでは、結ばれちゃったりするのかな
の連想です。
自分の言葉やイメージが貧困なので
既成のモノに逃げるんですよね、ついつい
ムー大陸 URL @
01/28 00:39
うーん. 

>こちらのお話しでは、結ばれちゃったりするのかな

そういう話にはならないような気がします(笑)
「異形の者の恋心」でいえば、「蛇性の淫」とかは大好きなのですが。
key URL @
01/28 02:44
. そうか、娘さんのいきなり張り切っちゃってる
感じが、きつねぽくて怪物を手玉に取るのかな、と

でも、期待通りの筋書きじゃ吸引力はないですものね。

蛇性の淫と伺ったら、人間椅子(バンドの)が蘇り、今聞いています。同名の曲ご存じですか?

00011111のおかげで、このようなことになってしまいましたが、そもそもは中村光夫に惹かれてこちらに参ったのですよ。
わたしの中では、中村稔はいい人で中村光夫はちょっとヤな人でした。おかげさまで、中村光夫を再考することができそうです。
というか、ネットで中村光夫に出会えるなど、稀有な経験です。(あくまでわたし自身にとって)

あの、、、うざいですか、わたし。

ムー大陸 URL @
01/29 00:05
いえいえ. 

うざいなんてとんでもない。

中村光夫は、大好きとは言いがたいのですが、
無視しがたい何かがあるように思えます。








 

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