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『長鼻くんといううなぎの話』

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『長鼻くんといううなぎの話』
イオシーホフ作 福井研介 ほか共訳 講談社 昭和48年


 今日、古本屋で見かけて思わず買ってしまったのである。小学生のころ、本が擦り切れるほど何度も何度も読み返した愛読書であるが、いつのまにかどこかに消えてしまってそれっきりの本の一つ。
 いい年こいた男が、そんなものを見つけて他愛もなく喜んでいるのも、あまり誉められた姿ではないのだが、まあいいのだ。200円だったし。
 節操のない好奇心と食欲の持ち主である鰻の長鼻くんが、サルガッソ海で生まれ、大西洋を横切って、地中海にわたり、さらに黒海をへてロシアの川をさかのぼり、そして再び海に帰って行くまでのお話である。いくつかのイメージ、例えば長鼻くんが、ひょんな偶然から地下水脈に迷い込んでしまい、白くて目のない「魚の幽霊」が徘徊する暗闇の中を、地上への出口をさがして幾日もさまようエピソードなどは、私の夢想の底に横たわる「原型」として、今も私の精神の「地下水脈」を成しているとは言えないか。近頃、小学校低学年のころの読書が、人のイメージの原型を作り出すような気がしてならない。
 で、今読み返しても、なかなかのものなのである。

 …しかし、魚たちは、健康とか、健康でないとかという話は、おたがいに、ほとんど口にしません。どうしてそうなのか。それには、わけがあるのです。ぐあいが悪いからといって、それをいいふらそうものなら、海の底のほうから、すぐに救急隊と名のる魚がうかび上がってきて、
「ははあ、病気っていうのはおまえだな。じゃ、応急手当をしてあげよう。さあ、わたしの口の中におはいり。」
 これで、魚の苦しみもおしまいになります。
 魚は、自分が死ぬときがやってきた、と感じたばあい、ようすはすっかりちがうのです。ありったけの声でなきさけんで、なかまや友だちにきけんを知らせます。
「ぼくは、ころされそうだ。みんな、にげろ!」
 でも、人間が生きたままの魚をしおづけにするたるの中になげこんだり、生きたままうろこをはいだり、切ったりしても、魚は声一つたてません。なぜでしょう。
 そんなことをしても、むだだからです。


 名文である。

2005年7月21日
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COMMENT

- URL @
09/22 23:53
. 初めまして。今日2008/9/22毎日.jpに「ニホンウナギ 世界初の親魚捕獲 マリアナ諸島西方で」という記事が掲載されました。私も小学生の頃に読み、ウナギの生態がナゾであることを教えてくれたこの本のことが気になって検索したところ、唯一こちらの記事にたどり着きました。
学校の図書室で借りたので手元にはありません。
覚えているのはサルガッソ海、クラゲ、あと毒団子の作り方を教えてくれなかったことなど。シャレっ気のある面白い文章でした。ロシアの話だったんですね。地理的に北米辺りだと思っていました。そしてウナギの生態は未だにナゾだったんですね!
懐かしさと、同級生に会ったような嬉しさでついコメントしました。書名を思い出させていただき、ありがとうございました。こんど探してみようと思います!
ムー大陸 URL @
09/24 20:36
はじめまして. コメントありがとうございます!
こちらも正に「同級生に会ったような嬉しさ」です。
これ古本屋で見つけたときは思わず「おおっ」と叫んでしまいました。
投稿者さんが、またこの本と再開できることを願っております!
Zhang+Lue URL @
09/10 18:32
はじめまして。. 突然ですが、テレビでうなぎの稚魚レプトセファルスのことをやっていて、私が小学生の時に呼んだ本を思い出し、検索したらこちらにたどり着きました。
小学6年の時1冊の本をまとめて研究発表する授業で、私はこの本を選びうなぎの生態のなぞを発表しました。学年で2位だったこともあり、この本はその後もずっと忘れられないものになりました。内容はタイトルとレプトセファルスという名前、生態がなぞということしか覚えていませんし、書影をみても思い出せないくらいですが...。
もう一度読んでみたいと思いました。古本屋さんをまわってみようと思います。
突然のコメント失礼しました。
ムー大陸 URL @
09/14 16:20
コメントありがとうございます. ぜひぜひ、機会があったら再読されてみてください!
ハードカバーの他に、新書版の大きさでも再販されているようです(こちらも絶版のようですが)。。。
- URL @
06/14 09:35
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